Regional
Development
Studies
追手門学院大学地域創造学部ウェブサイト
葛西 リサ
地域創造学部
地域デザインコース担当教員
-Kuzunishi Risa-
安心して過ごせる住まいを
一人でも多くの人達に
―― はじめに、葛西先生のご研究について教えてください
母子家庭の住宅問題に関する研究を20年間行っています。また最近では、LGBTQや低所得、かつ独居高齢者の住まいに関する研究をしています。
研究テーマの例としては、シングルマザー向けシェアハウスの運営者側への調査や、入居者への調査また、企業と連携してハウスを実際にプロデュースしたりしています。そして、関心のある内容としては、家族の変化やライフスタイルの多様化に住まいがどのように変化し対応していくのかという点です。
―― 葛西ゼミではどのようなことを行っていますか
学生主体のイベントを行っており、内容としてはシングルマザーに関するイベントを様々な場所で開催したり、福岡県の企業と協力してLGBTに関する座談会を開いたりなど基本的には学生がやりたいことや興味のあることを基本に、学年の違いも関係なく、学生主体の形態でイベントを開催しています。
ただし、イベントにとどまらず、それを通して、そこで何を感じたか、何を発見したかなど、学びにつなげることが重要だと思っています。
つまり、イベントは目的ではなく、調査研究のためのツールだと思っています。
上記のイベントを行っている中で印象に残ったエピソードがあれば
教えてください
これはシングルマザー家庭のシェアハウスに定点観察に行った時のエピソードがあります。
フィールドを定点観察していた時、ある学生から、「母親だけではなく、子供たちへの調査を行う必要があるのではないか」と意見が出たことがありました。シェアハウスのサービスは、母親向けにアピールされることがしばしばで、子どもたちが従属物のように扱われていることに疑問を持った学生からの問でした。しかし、調査計画の中で、ハウスで暮らす子どもたちの年齢は幅広く、通り一遍のインタビューで、何かを引き出すのは難しいという課題が挙がりました。結果、学生たちが議論をし、絵をかいてもらうということを通して、彼らの内面を可視化しようということになりました。
2020年に、シェアハウスにきて面白かったことや悲しかったことを絵にして表現してもらおうというお絵描きワークショップを、東京と神奈川の2つのシェアハウスで開きました。
そのイベントで、6歳の子がいろいろな絵を使い、キラキラした「何か」をかきました。
その絵のタイトルは【観覧車】だったのですが、それを書いた理由は不明のままでした。
そして後日シェアハウスの事業者さんから聞いた話によると、その子とその子のお母さんの家はものすごく困窮しており、少し昇進してお給料が上がったときに、子供2人を連れて「ちょっとした贅沢をする」と観覧車に乗ったそうです。その子はその思い出を、真っ先に絵にしたのでした。
こういったことをきっかけに、プロジェクトに参画したメンバー間では、現場に出て人の話を聞く、自分の目で見ることの重要性と、インタビューにあわせて、真実を引き出すための工夫がいかに大切かということが共有できました。
―― 卒業論文、卒業制作はどのようなものを作っていますか
基本的には、私の専門性にかかわらず、学生がやりたいことを尊重します。論文や制作についても、どちらがいい、悪いではなく、結果をよりよく表現するために、最適な方法を選定することをアドバイスします。ただし、やっぱり、住宅問題やLGBTQに関することをテーマにするケースが多いです。今年の卒業制作の1例を挙げると、LGBTQに関する教材が小学校や中学校向けにほとんどないという課題を踏まえて、誰でもが学べる「絵本」を作成しました。
卒業論文では、外国人の住宅問題や内部障害(吃音症や聾唖)と呼ばれる見えにくい障害を抱えて生きる人の生活課題、介護離職や、ペットの殺処分問題などを研究した学生がいました。
上画像:学生の制作物の展示
―― 卒業後、ゼミを通してゼミ生にはどのような人物
になってほしいですか
卒業論文や卒業制作を作成するために、2年かけて悩んで悶絶するというのは、苦しいけども、多くの人にとって一生に一度の貴重な経験だと思うのです。
情報があふれている社会の中で、正しい情報を獲得して、問を立て、解に結び付ける訓練というのは、どの領域にいっても役立つことだと思います。その中で、自分が幸せだと思う場所で、そのスキルを存分に生かしてほしいと思います。
―― 最後に、学生に向けてメッセージをお願いします
葛西ゼミでは、さまざまな社会的な不利について、実際に現場に出て、明らかにするということを積極的に行っています。コロナ禍以降、更に、社会的な弱者の不利は進行し、経済的な格差も広がっています。とりわけ、子どもの貧困に対する社会的関心は高く、地域でも、子ども食堂等の居場所づくり、無料学習塾、フードパントリーなど多様な形での食糧支援も始まっています。それぞれ、関心のあるフィールドに軸足を置き、社会の課題に触れ、それを可視化する力を養ってほしいと思います。