Regional
Development
Studies
追手門学院大学地域創造学部ウェブサイト
田中 正人
地域創造学部 地域デザインコース担当教員
-Tanaka Masato-
ゼミは
「みんなが共同研究者」
――田中先生の研究テーマを教えてください。
専門分野は都市計画と災害復興です。もともとは、建築について学んでいたのですが、個人が所有・利用する物ではなく、より不特定多数に関係する公共性のある空間を扱いたいと思うようになって、建築から都市レベルに関心が移っていったんですね。大学生のときは、特にウォーターフロントの開発計画を研究対象にしていました。当時(1990年代前半)はまだバブル経済が続いていて、全国的な開発ブームで、とりわけ臨海部は格好の開発投資の対象となっていました。だけど、はたして自然環境をこんなに人工化してしまっていいんだろうか、行き過ぎた開発はいずれ「大きな問題」を引き起こすんじゃないかっていう強い疑問がありました。
「大きな問題」が現実になった契機はありますか。
阪神・淡路大震災です。それは僕の想像する問題をはるかに超えたものでした。修士課程2年のときでした。自分が暮らしていた神戸のまちが被害を受けて、建築や都市が無茶苦茶に壊れるのを目の当たりにして、それ以来、災害復興の問題を追いかけることになりました。
被災地には、確かに時間の経過とともに新しくきれいな空間が出来上がっていくんですが、必ずしもその空間に住んでいる人が幸せに元の暮らしを取り戻しているようには見えなかった。むしろ新しくできた空間が、彼らの生活再建を阻んでいるように思えました。だとすれば、どういう空間を再生すれば、被災者が元々の暮らしや地域とのかかわりを取り戻せるのだろうか。こうした疑問を解くために、研究を続けています。
――田中先生の現在調査しているまちを教えてください。
復興は長い過程なので、ひとつの地域に繰り返し足を運ぶことが僕の基本的なやり方です。たとえば、東日本大震災の被災地でいうと岩手県・宮城県の沿岸部、そのなかでも特に被災者用の災害公営住宅があります。阪神・淡路大震災で注目された、いわゆる「孤独死」問題と住まいの関係を調査しています。また福島県の原発被災地、双葉郡の川内村っていうところでも避難者や帰還者へのインタビューを続けています。
また、2011年の紀伊半島大水害の被災地のひとつである奈良県十津川村も、足繁く通っているフィールドのひとつです。僕の研究は、今の政策や計画の、根本的に変えなきゃいけない点をあぶりだすことを目的としていることが多いんですけど、十津川村は逆で、すごく良い事例っていうか、あるべき政策や計画の手がかりがたくさん潜んでいると思っています。そのほか、南海トラフ地震のリスクがとりわけ大きい和歌山県串本町などの太平洋沿岸地域も10年以上追っている地域です。これらの研究成果は、去年(2022年)出版した『減災・復興政策と社会的不平等』という本にまとめたので、関心のある人にはぜひ読んでほしいと思っています。
あと、コロナ感染拡大前はイタリア北部地震(2012年)後の都市再建の調査をやりかけていたんだけど、海外渡航が難しくなって止まっています。そろそろ再開したいと思っています。
――ゼミの雰囲気はどのような感じですか。
雰囲気はメンバーによって違ってくるので何とも言えないですけど、ゼミ運営についてはできるだけゼミ生主体でやってもらっています。たとえば3年生の秋学期からは、進行とか質疑のファシリテーションなどは毎回担当を決めてやっています。ディスカッションの記録をホワイトボードに書くのもゼミ生です。
ずっと課題だなと思っているのは、関心の違いの壁をどう超えるかです。毎年、ゼミ生の半分くらいが災害系、残りの半分が空間デザイン系に関心を持っています。このふたつは互いに強く関連しあっているんだけど、どうしてもどちらかに閉じてしまう傾向があるみたいです。僕としては、どちらにも目を向けてもらいたいなと思っています。
ーゼミは個人かグループどちらですか
最終的な卒業研究は、基本的に個人でやるものとしています。ただし、調査を企画したり、フィールドワークに出かけたり、結果を話し合ったりなど、研究途中の過程は大いにグループで活動することを推奨しています。また、ゼミは個人の集まりであると同時に、「みんなが共同研究者」という考え方に基づくひとつの知的集団でもあるはずです。ゼミ生主体で進行したりするのは、その思いがあるからです。全員がそれぞれの研究に関心を持ってほしいと思っています。
―男女比はどのくらいですか
男女比は毎年変わってきますが、今年(2022年度)の場合、4年生は男女1:2で女性が多く、3年生は2:1で男性が多くなっています。また次の3年生は男女1:1で同じくらいです。
インタビューの様子
―― 求める学生像について教えてください。
ゼミ募集の資料に毎年書いていますが、個人でしっかり課題に向き合うことができるということです。自分の頭で考えて、自分の判断で行動する。研究テーマは、私の守備範囲に多少ともかすっていれば自由で限定はしていません。ただ、本当に重要だと言える研究テーマは簡単には見出せません。それを見つけること自体が、研究の最も重要な部分です。何のための研究なのか、誰の困難を和らげるのか、誰の幸福に資するのか、自分自身の頭で考え抜いてテーマを見つけてほしいと思っています。
―― ゼミ生の卒業研究はどのようなものをされていますか。
高齢者や障害者など、いわゆる災害弱者の問題や、避難所や仮設住宅、災害公営住宅のあり方など一連の減災復興研究や、過疎地域における古民家再生や廃校活用の意味、ニュータウンの空き家問題や公的住宅のリノベーションの提案など様々です。
過去の卒業研究のテーマは研究室のウェブサイトに掲載しているので見てみてください。(http://masatotanaka.sakura.ne.jp/)